更新日 09/08/05

佐賀県看護研究会発表資料

経験年数にみた口腔ケア実践に対する研修の影響度


【はじめに】
 

 看護における口腔ケアは、従来、患者の口腔内の清潔という観点から実践されてきた。
現在では口腔ケアの概念は拡大し、口腔の保持のみならず、二次感染の予防やリハビリテーションにより人々のQOL向上を目指した技術として取り入れられるようになった。
  当病棟は、脳血管疾患などによりリハビリテーションを目的とした患者が半数を占めている。高齢化も伴い要看護・介護高齢者が多く、日常生活に援助を必要とする患者が多い。
  そこで今回、当病棟スタッフの口腔ケアに関する実態を「研修受講者は知識・技術共に向上し実践できている」との仮説を立て調査した結果を報告する。


【研究目的】
 

当院スタッフの口腔ケア実践に対する知識・技術面における研修の影響度を明らかにする。


【研究方法】
 
  1. 調査期間
      2005年8月10日〜2005年8月13日

  2. 調査対象
    当院スタッフ10名(看護師5名・準看護師5名)
    経験年数1〜5年 1名
    6〜10年 2名
    11〜13年 1名
    14年以上 6名

  3. 調査方法
      無記名によるアンケート調査に同意を得た10名に対し用紙を配布、留め置き法にて回収箱を設置し2005年8月16日〜8月17日に回収した。

  4. 倫理的配慮
      研究の趣旨および結果は統計的に使用すること、プライバシーを守り協力者に対し迷惑をかけるような使い方は一切しないことを調査用紙に添付し、文章で説明を行った。

  5. 調査内容
    口腔ケアの知識・技術面への影響度を
    3点「大変影響がある」
    2点「影響がある」
    1点「影響がない」
    0点「全く影響がない」
    の0〜3の(0を含む)4段階で下記の5項目について調査を実施した。
    1)口腔ケア方法の掲示について
    2)口腔ケア向上委員会設立について
    3)口腔ケアの勉強会について
    4)口腔ケアの個別指導について
    5)口腔ケア手順のマニュアル化について

  6. 分析方法
    5項目の知識・技術面での影響度をそれぞれ経験年数別に点数化し分析した。
    2点以上は「影響度が高い」
    1点以下は「影響度が低い」と判定する。


【結果】
 
  1. 口腔ケア方法の掲示について
    全ての群において知識・技術面共に2点「影響がある」と回答。
    表1.


  2. 口腔ケア向上委員会設立について
    1〜5年の群は、知識・技術面共に3点「大変影響がある」と回答し、11〜13年の群では、知識・技術面共に2点「影響がある」と回答。6〜10年の群では、知識・技術面共に2点「影響がある」と1点「影響がない」との回答であった。
    14年以上の群は、知識・技術面共に2名が「影響がある」との回答に対し、半数以上が1点「影響がない」との回答であった。
    表2.


  3. 口腔ケアの勉強会について
    1〜5年、11〜13年の両軍では知識・技術面共に3点「大変影響がある」と回答。
    6〜10年の群では知識・技術共に3点「大変影響がある」2点「影響がある」との回答であり、技術面への影響度のほうが高かった。
    14年以上の群では知識・技術共に半数は3点「大変影響がある」2点「影響がある」との回答に対し、残り半数は1点「影響はない」とばらついた回答であった。
    表3.


  4. 口腔ケアの個別指導について
    1〜5年の群では、知識・技術面共に3点「大変影響がある」、11〜13年の群も2点「影響がある」との回答。6〜10年の群は、技術面への影響度は3点「大変影響がある」2点「影響がある」との回答に対し、知識面への影響度は2点「影響がある」1点「影響はない」との回答であり、技術面への影響度が高かった。
    14年以上の群では、知識面への影響度は3点「大変影響がある」、2点「影響がある」との回答に対し、知識面への影響度は殆どが2点「影響がある」1名が1点「影響がない」との回答であり知識面への影響度が高かった。
    表4.


  5. 口腔ケア手順のマニュアル化について
    1〜5年、11〜13年の両群は、知識・技術面共に2点「影響がある」と回答。
    6〜10年の群では、技術面への影響度は2点「影響がある」との回答に対し、知識面への影響度は2点「影響がある」1点「影響はない」との回答であり、技術面への影響度が高かった。
    14年以上の群では知識・技術面共に影響度は3点「大変影響がある」、2点「影響がある」、1点「影響はない」とばらついた回答であった。また、技術面よりも知識面への影響度が高かった。
    表5.


【考察】
 

 高齢化社会を迎え、急増する要看護、介護高齢者のQOL向上を目指した生活の援助が必要となってくる。そのため口腔領域では口腔ケアの実践が重要となる。
 現在、口腔ケアの定義として、「口腔の疾病予防、健康の保持増進、リハビリテーションによりQOLの向上を目指した科学であり技術である」と山中(1)は定義づけている。


 前回のアンケート調査の結果で、口腔ケアの必要性の理解度は高いが、実施に対し技術面での未熟さ、自信がない、不安など個人的問題がみられた。また、スタッフ間でのケア方法が統一されないなどの組織的問題もみられた。そこで、個人的・組織的問題に対して5項目を実施し、この5項目がどれくらいの影響度があったかを年齢別に調査した。


 全項目のうち、ケア方法の掲示については全員が「影響がある」との回答であった。経験年数1〜5年、11〜13年の両群においては、全項目「影響がある」との回答。6〜10年の群は5項目のうち1)ケア方法の掲示、3)口腔ケアの勉強会に対しては、知識、技術面共に「影響がある」と回答。また、4)口腔ケアの個別指導、)口腔ケア手順のマニュアル化においては知識面よりも技術面に「影響がある」との回答であった。14年以上の群では、5項目のうち1)ケア方法の掲示のみ知識・技術面共に「影響がある」と回答。4)口腔ケアの個別指導、5)口腔ケアの手順マニュアル化に対しては、技術面よりも知識面に「影響がある」との回答であった。


 以上のことから、経験年数に関係なく口腔ケアの掲示によって知識・技術面共に影響度が高いことが分かった。「人は知識・技術面を得る場合、感覚器官を通して情報を得て脳で判断・認識を行う。その情報の基になる外界に関する情報の大部分は目から入ってくる」と鈴木ら(2)は述べている。そのことから、口腔ケアの方法掲示は視覚という人間にとって最も重要な感覚器を利用したことが経験年数に関係なく知識・技術面共に影響度が高いのではないかと考える。また、口腔ケアの方法掲示内容に手順だけでなく写真や絵を加え洗面所に掲示したことも要因ではないかと考える。


 経験年数別に見ると、1〜5年の群は「新人」であり知識・技術面共に未熟である。そのため、学習意欲が高いために全項目の影響度が高いと考える。6〜10年の群は「一人前」であり、自己の目標達成に向けて計画を立てて意識的に自分の活動を行うために勉強会での影響度は高い。また、高度な技術の習得を好む傾向があるため知識面よりも技術面での影響度が高いことが考えられる。11〜13年の群は「中堅」である。前回の口腔ケアアンケート調査参加者のため研修後も院内研修会への参加も積極的であり影響度が高いと考える。14年以上の群は「達人」であり、状況を直観的に把握することができる。しかし、全項目において影響度は低い。知識面よりも技術面への影響度がが低い。また、個別に見ると個人差が大きい。このことは、知識・技術への捉え方が思考によるものではなく今までの経験が大きく関与していることが考えられる。


 口腔ケアにおける看護の役割は多様かつ重要である。経験年数によって知識・技術面への影響度は様々であることがわかった。しかし、より良いケアを提供していくためには全員が統一したケアを習得し、実施していかなければならない。また、今回の5項目のなかで影響度が低い項目に関しては問題点を分析し、解決していくことが今後の課題といえる。


【まとめ】
 

今回の研究で次のことが明らかになった。

  1. 全ての群に口腔ケアの方法掲示は知識・技術面において影響度は高い。

  2. 1〜5年、11〜13年の両群においては、全項目において知識・技術面への影響度は高い。

  3. 6〜10年の群では、口腔ケアの勉強会による影響度は高い。また、知識面よりも技術面への影響度が高い。

  4. 14年以上の群では、口腔ケアの方法掲示による影響度は高い。また、口腔ケアの個別指導、口腔ケア手順のマニュアル化においては技術面よりも知識面への影響度が高い。


【文献】
 

謝辞

この研究をまとめるにあたり御指導・御協力いただいた全ての方々に深く感謝いたします。

引用・参考文献

  1. 山中克己:口腔ケアの概念の広がり
    JJNスペシャルNo.73
    P8〜10 2003年

  2. 鈴木泰三 他:大学課程の生理学 P81
    南江堂 1995年

  3. パトリシア・ベナー:ベナー看護論
    達人ナースの卓越性のパワー
    医学書院 P10〜146 1992年

  4. 久保良敏:図解心理学 P8〜14
    北大路書房 1972年

  5. 角保徳也:基礎編5分でできる口腔ケア p26〜39
    医歯薬出版 2004年

  6. 迫田綾子:リハビリテーション看護における口腔ケア実践の動向
    リハビリテーション看護における評価 P51〜56
    医歯薬出版 2002年

  7. 道重文子:「口腔ケア」に関する研究の動向と今後の課題、看護技術48
    医歯薬出版 2004年


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