更新日 07/04/25
脳血管等リハビリテーション
運動器リハビリテーション

佐賀県看護研究会発表資料

当病棟における口腔ケアに関する職員の実践状況


【はじめに】
 

 看護における口腔ケアは、従来、患者の口腔内の清潔という観点から実践されてきた。近年、医療において人々に質の高いケアを提供していくためには根拠に基づいた実践が求められるようになり、誤嚥性肺炎が口腔内の細菌によって引き起こされることが明らかになり口腔ケアの重要性が高まった。
  現在では口腔ケアの概念は拡大し、口腔の保持のみならず、二次感染の予防やリハビリテーションにより人々のQOL向上を目指した技術として取り入れられるようになった。
  当病棟は、脳血管疾患などによりリハビリテーションを目的とした患者が半数を占めている。高齢化も伴い要看護・介護高齢者が多く、日常生活に援助を必要とする患者が多い。
  そこで今回、当病棟スタッフの口腔ケアに関する実態を「研修受講者は知識・技術共に向上し実践できている」との仮説を立て調査した結果を報告する。


【研究目的】
 

 当院病棟スタッフ(看護師・看護助手)の口腔ケアに対する実態を明らかにする。


【研究方法】
 
  1. 調査期間
      2004年9月3日〜2004年9月7日

  2. 調査対象
      当院スタッフ看護師(以下Nsと略す)18名、看護助手(以下助手と略す)7名。

  3. 調査方法
      無記名によるアンケート調査に同意を得た25名に対し用紙を配布し、留め置き法にて回収箱を設置し後日回収した。

  4. 倫理的配慮
      研究の趣旨および結果は統計的に使用する事、プライバシーを守り協力者に対し迷惑をかけるような使い方は一切しないことを調査用紙に添付し、文章で説明を行った。

  5. 調査内容
      当院病棟による口腔ケア実践内容と文献をもとに下記の5項目についての内容で調査を実施した。
      1)口腔ケアの必要性の理解度
      2)研修受講の有無
      3)口腔ケアの方法及び必要物品に対する知識
      4)口腔ケアの所要時間
      5)実施に対する自己評価

  6. 分析方法
      「研修受講者は知識・技術共に向上し実施できている」と仮説を立て分析した。


【結果】
 
  1. 口腔ケアの必要性について(表1)
    口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防やQOL向上のために「必要である」と全員が回答。
    表1.口腔ケアの必要性について
      看護師 助手
    誤嚥性肺炎の予防やQOL向上のために必要である 18 7 25
    必要ではない 0 0 0
    18 7 25


  2. 研修受講の有無について(表2・3)
    口腔ケアの研修歴「受けたことがある」18名(Ns13名・助手5名)そのうち「院内研修」12名(Ns11名・助手1名)「院外研修」5名(Ns1名・助手4名)「以前の勤務先での研修」1名(Ns1名)であった。また、口腔ケア受講経験あり18名のうち「知識のみ向上」6名(Ns3名・助手3名)「技術のみ向上」3名(Ns2名・助手1名)「知識・技術共に向上」7名(Ns7名)「知識・技術共に不十分」2名(Ns1名・助手1名)であった。受講経験なし7名(Ns5名・助手2名)であった。
    表2.口腔ケアの研修歴
      看護師 助手
    以前の勤務先での研修 1 0 1
    院外研修 1 4 5
    院内研修 11 1 12
    未受講 5 2 7
    18 7 25

    表3.研修後の状況(受講経験者のみ)
      看護師 助手
    知識のみ向上 3 3 6
    技術のみ向上 2 1 3
    知識・技術共に向上 7 0 7
    知識・技術共に不十分 1 1 2
    13 5 18


  3. 口腔ケアの方法及び必要物品に対する知識について(表4)
      研修受講経験がある18名のうちケアが十分にできている11名(Ns10名・助手1名)に対し、口腔ケアに必要な物品の選択として10品目のうち「すべて選択」3名(Ns3名)「9品目」2名(Ns2名)「8品目」2名(Ns2名・助手1名)「7品目」2名(Ns2名)「6品目」1名(Ns1名)「4品目」1名(Ns1名)であった。受講経験はあるがケアが十分でない7名(Ns3名・助手4名)のうち「7品目」1名(助手1名)6品目1名(Ns1名)「5品目」1名(Ns1名)「4品目」3名(Ns1名・助手2名)「3品目」1名(助手1名)と受講経験がない7名のうち「6品目」1名(助手1名)「5品目」3名(Ns2名・助手1名)「4品目」1名(Ns1名)「3品目」2名(Ns2名)であった。
    表4.必要物品の選択

    1.研修受講経験なし
    選択品目数 看護師 助手
    6品目 0 1 1
    5品目 2 1 3
    4品目 1 0 1
    3品目 2 0 2
    5 2 7

    2.受講経験者で実施が十分にできている
    選択品目数 看護師 助手
    10品目 3 0 3
    9品目 2 0 2
    8品目 1 1 2
    7品目 2 0 2
    6品目 1 0 1
    4品目 1 0 1
    10 1 11

    3.受講経験者で実施が不十分
    選択品目数 看護師 助手
    7品目 0 1 1
    6品目 1 0 1
    5品目 1 0 1
    4品目 1 2 3
    3品目 0 1 1
    3 4 7


  4. 口腔ケアの所要時間について(表5)
      研修受講経験がある18名のうち口腔ケアにかかる1人あたりの時間として「1〜2分」5名(Ns3名・助手2名)「3〜5分」11名(Ns8名・助手3名)「6〜9分」1名(Ns1名)「10分以上」1名(Ns1名)であった。受講経験がない7名のうち「1〜2分」1名(Ns1名)「3〜5分」4名(Ns2名・助手2名)「6〜9分」2名(Ns2名)「10分以上」なしであった。
    表5.口腔ケア実施時間(1人当たり)

    1.研修受講経験あり
    実施時間 看護師 助手
    1〜2分 3 2 5
    3〜5分 8 3 11
    6〜9分 1 0 1
    10分以上 1 0 1
    13 5 18

    2.研修経験なし
    実施時間 看護師 助手
    1〜2分 1 0 1
    3〜5分 2 2 4
    6〜9分 2 0 2
    10分以上 0 0 0
    5 2 7


  5. 実施に対する自己評価について(表6・7)
      研修受講の経験がある18名のうち「十分にできている」11名(Ns10名・助手1名)「十分にできていない」4名(Ns2名・助手2名)「わからない」3名(Ns1名・助手2名)であった。また受講経験がない7名すべて「十分にできていない」であった。十分にできていない、わからない14名のうち十分にできていない理由として(複数回答)「ケアはするができているかどうかわからない」15名(Ns9名・助手6名)「スタッフ不足」1名(助手1名)「ケアをするのに時間がかかる」1名(Ns1名)であった。
    表6.口腔ケア実施時間(1人当たり)

    1.研修受講経験あり
    実施時間 看護師 助手
    十分にできている 10 1 11
    十分にできない 2 2 4
    わからない 1 2 3
    13 5 18

    2.研修経験なし
    実施時間 看護師 助手
    十分にできている 0 0 0
    十分にできない 5 2 7
    わからない 0 0 0
    5 2 7

    表7.十分にできない理由(複数回答)

      看護師 助手
    実施に対し自信がない 9 6 15
    スタッフ不足 0 1 1
    時間がかかる 1 0 1
    10 7 17


【考察】
 

 高齢化社会を迎え、急増する要看護、介護高齢者のQOL向上を目指し生活の援助が必要となり、口腔領域では口腔ケアの実践が大変重要になっている。現在、口腔ケアの定義として「口腔の疾病予防、健康の保持増進、リハビリテーションによりクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を目指した科学であり技術である。」と山中は定義つけている。


  そこで今回われわれは当院における口腔ケアの実施状況について「研修受講者は知識・技術共に向上し実施できている。」との仮説を立て調査した。


  口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防やQOLの向上のため全員が必要であるとの回答であり研修受講経験者は18名と半数を超えていた。しかし、研修後の状況は知識のみ向上6名、技術のみ向上3名、知識・技術共に向上ものは7名であった。また、口腔ケアが十分にできているといえるものは11名、必要物品を10品目選択できたものはわずか3名であった。以上のことから、口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防やQOL向上に有効であることを理解し研修の参加も積極的に行っていることがわかった。しかし、研修受講者すべてが知識・技術共に向上し実施できているとは限らないことも明らかになった。また、研修受講経験者・未経験者共に実施できない理由として技術に対する不安を抱えていることや物品選択、実施にかかる時間にもばらつきが見られ統一のなさも明らかになった。


  今回得られた結果から、当院病棟スタッフは研修受講経験の有無に関係なく口腔ケアに対する必要性の理解度は高い。しかし、実施に対し技術面において多くのものが不安を抱えていた。このことは、技術が未熟、自信がない、不安など個人的問題や研修受講後のスタッフ間での伝達がうまくいかない、方法が統一されないなどの組織的問題が考えられる。


  迫田は看護の中に口腔ケアを定着させるためには「口腔ケアへの取り組みを妨げる多くの理由のうち、1つでも解決すれば、次々と変化が起こりやすいものであり、できることからはじめるのが成功の秘訣である」と述べている。このことからも当院病棟スタッフ全員が知識・技術共に向上するためには、個人的問題に対しては口腔ケア技術のトレーニングをフィードバックしていく必要があると考える。また、組織的問題については、当院における口腔ケアのガイドラインを決め定期的に検討の場を持ち組織的に取り組むことで、よりケアが充実していくのではないかと考える。


  口腔ケアにおける看護の役割は多様かつ重要である。口腔ケアの技術を高めるために、病棟スタッフが抱えている問題や不安などを引き出しながら個人的・組織的問題を解決していくことが今後の課題となる。


【まとめ】
 

今回、仮説をもとに分析を行った結果次のことが明らかになった。

  1. 口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防やQOLが向上すると全員が必要性の理解度は高かった。

  2. 研修受講経験者すべてが知識・技術共に向上し実施できているとは限らない。

  3. 口腔ケアが十分に実施できない理由として、技術面での不安が大きい。

  4. 口腔ケア実施に対する物品選択や実施時間にばらつきがあり統一性が見られない。


【文献】
 

引用文献

  1. 山中克己:口腔ケアの概念の広がり
    JNNスペシャル、No.73、P8〜11
    2003年

  2. 迫田綾子:口腔ケアと看護
    JNNスペシャル、No.73、P12〜16
    2003年

参考文献

  1. 角 保徳他:基礎編、5分でできる口腔ケア
    医歯薬出版、P26〜39
    2004年

  2. 迫田綾子:リハビリテーション看護における口腔ケア実践の研究の動向、リハビリテーション看護における評価(2)
    医歯薬出版、P51〜56
    2002年

  3. 道重文子:「口腔ケア」に関する研究の動向と今後の課題
    看護技術48(4)、P418〜427
    2002年


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